sigaction(2) シグナルの動作の確認と変更

書式

#include <signal.h>


int sigaction(int signum, const struct sigaction *act,
struct sigaction *oldact);

glibc 向けの機能検査マクロの要件 (feature_test_macros(7) 参照):

sigaction(): _POSIX_C_SOURCE >= 1 || _XOPEN_SOURCE || _POSIX_SOURCE

siginfo_t: _POSIX_C_SOURCE >= 199309L

説明

sigaction() システムコールは、特定のシグナルを受信した際の プロセスの動作を変更するのに使用される (シグナルの概要については signal(7) を参照)。

signum には、 SIGKILLSIGSTOP 以外の有効なシグナルをどれでも指定できる。

act が NULL 以外であれば、シグナル signum の新しい動作 (action) として act が設定される。 oldact が NULL でなければ、今までの動作が oldact に格納される。

sigaction 構造体は以下のような感じに定義される。

struct sigaction {
    void     (*sa_handler)(int);
    void     (*sa_sigaction)(int, siginfo_t *, void *);
    sigset_t   sa_mask;
    int        sa_flags;
    void     (*sa_restorer)(void);
};

アーキテクチャによっては共用体 (union) が用いられており、その場合には sa_handlersa_sigaction の両方を同時に割り当てることはできない。

sa_restorer 要素は廃止予定であり使用すべきではない。 POSIX には sa_restorer 要素に関する規定はない。

sa_handlersignum に対応する動作を指定するもので、 デフォルトの動作を行う SIG_DFL、 そのシグナルを無視する SIG_IGN、 シグナルハンドラ関数へのポインタが設定できる。 シグナルハンドラ関数の引き数は一つであり、シグナル番号が引き数として 渡される。

sa_flagsSA_SIGINFO が指定された場合、 (sa_handler ではなく) sa_sigaction により signum に対応するシグナルハンドラ関数が指定される。指定される関数は、最初の引き数としてシグナル番号を、二番目の引き数として siginfo_t へのポインタを、三番目の引き数として (void * にキャストした) ucontext_t へのポインタを受けとる。 (一般的には、ハンドラ関数の三番目の引き数が使用されない。ucontext_t についての詳しい情報は getcontext(3) を参照。)

sa_mask は、シグナル・ハンドラ実行中に禁止 (block) すべきシグナルのマスクを指定する (ハンドラ実行中のシグナルの禁止は、シグナル・ハンドラが起動されたスレッド のシグナルのマスクに追加することで行われる)。 さらに、 SA_NODEFER フラグが指定されていない場合は、ハンドラを起動するきっかけとなる シグナルにも sa_mask が適用される。

sa_flags はシグナル・ハンドラの動作を変更するためのフラグの集合を指定する。 sa_flags には、以下に示すフラグの (0 個以上の) 論理和をとったものを指定する。

SA_NOCLDSTOP
signumSIGCHLD の場合、 子プロセスが停止したり (子プロセスが SIGSTOP, SIGTSTP, SIGTTIN, SIGTTOU を受けたとき) 再開したり (子プロセスが SIGCONT を受けたとき) したときに SIGCHLD の通知を受けない。 このフラグは、 SIGCHLD に対してハンドラを設定する際にのみ意味を持つ。
SA_NOCLDWAIT (Linux 2.6 以降)
(Linux 2.6 以降) signumSIGCHLD の場合、子プロセスが終了したときに 子プロセスをゾンビプロセスに変化させない (waitpid(2) も参照)。 このフラグは、 SIGCHLD に対してハンドラを設定する際、もしくはそのシグナルの処理方法を SIG_DFL に設定する際にのみ意味を持つ。

SIGCHLD に対してハンドラを設定する際に SA_NOCLDWAIT フラグをセットした場合、 子プロセスが終了した際に SIGCHLD シグナルが生成されるかどうかは、 POSIX.1 では規定されていない。 Linux では、この状況で SIGCHLD シグナルは生成される。 いくつかの他の実装では生成されない。

SA_NODEFER
それ自身のシグナル・ハンドラーの内部にいる時でも そのシグナルをマスクしないようにする。 このフラグはシグナルハンドラを設定する際にのみ意味を持つ。 SA_NOMASK はこのフラグと同じ意味だが、廃止されており、非標準である。
SA_ONSTACK
sigaltstack(2) で提供される別のシグナル・スタックでシグナルハンドラを呼び出す。 別のシグナル・スタックが利用可能でなければ、デフォルトのスタックが 使用される。 このフラグはシグナルハンドラを設定する際にのみ意味を持つ。
SA_RESETHAND
シグナルハンドラを設定する際に、シグナルの動作をデフォルトに戻す。 このフラグはシグナルハンドラを設定する際にのみ意味を持つ。 SA_ONESHOT はこのフラグと同じ意味だが、廃止されており、非標準である。
SA_RESTART
いくつかのシステムコールをシグナルの通知の前後で再開できるようにして、 BSD シグナル方式 (semantics) と互換性のある動作を提供する。 このフラグはシグナルハンドラを設定する際にのみ意味を持つ。 signal(7) に書かれているシステムコールの再開に関する議論を参照のこと。
SA_SIGINFO (Linux 2.2 以降)
シグナルハンドラは一つではなく、三つの引き数を持つ。この場合は sa_handler のかわりに sa_sigaction を設定しなければならない このフラグはシグナルハンドラを設定する際にのみ意味を持つ。

sa_sigaction のパラメータ siginfo_t は以下の要素を持つ構造体である:

siginfo_t {
    int      si_signo;    /* Signal number */
    int      si_errno;    /* An errno value */
    int      si_code;     /* Signal code */
    int      si_trapno;   /* Trap number that caused
                             hardware-generated signal
                             (unused on most architectures) */
    pid_t    si_pid;      /* Sending process ID */
    uid_t    si_uid;      /* Real user ID of sending process */
    int      si_status;   /* Exit value or signal */
    clock_t  si_utime;    /* User time consumed */
    clock_t  si_stime;    /* System time consumed */
    sigval_t si_value;    /* Signal value */
    int      si_int;      /* POSIX.1b signal */
    void    *si_ptr;      /* POSIX.1b signal */
    int      si_overrun;  /* Timer overrun count; POSIX.1b timers */
    int      si_timerid;  /* Timer ID; POSIX.1b timers */
    void    *si_addr;     /* Memory location which caused fault */
    long     si_band;     /* Band event (was int in
                             glibc 2.3.2 and earlier) */
    int      si_fd;       /* File descriptor */
    short    si_addr_lsb; /* Least significant bit of address
                             (since Linux 2.6.32) */
}

si_signo, si_errno, si_code は全てのシグナルに対して定義されている (si_errno は Linux では一般的には使用されない)。 構造体の残りの部分は、共用体 (union) になっているかもしれない。 その場合は該当するシグナルにおいて意味のあるフィールドのみを読み込む ことができる。

*
kill(2) や sigqueue(3) で送信されたシグナルでは si_pidsi_uid が設定される。 さらに、 sigqueue(3) で送信されたシグナルでは si_intsi_pid にシグナルの送信者により指定された値が設定される。詳細は sigqueue(3) を参照。
*
POSIX.1b タイマ (Linux 2.6 以降) は si_overrunsi_timerid を設定する。 si_timerid フィールドはカーネルがタイマを特定するのに使用する内部 ID であり、 timer_create(2) が返すタイマ ID と同じではない。 si_overrun フィールドはタイマが回り切った回数である。 これは timer_getoverrun(2) の呼び出しで取得できる情報と同じである。 これらのフィールドは非標準で Linux による拡張である。
*
メッセージキューの通知用に送信されたシグナル (mq_notify(3) の SIGEV_SIGNAL の説明を参照) では、 si_int/si_ptrmq_notify(3) に渡された sigev_value が設定される。 si_pid にはメッセージ送信者のプロセス ID が設定され、 si_uid にはメッセージ送信者の実ユーザ ID が設定される。
*
SIGCHLDsi_pid, si_uid, si_status, si_utime, si_stime を設定し、子プロセスに関する情報を提供する。 si_pid フィールドは子プロセスのプロセス ID で、 si_uid フィールドは子プロセスの実ユーザ ID である。 si_stime フィールドには、 (si_codeCLD_EXITED の場合は) 子プロセスの終了ステータスが、それ以外の場合は状態が変化する原因となったシグナル番号が格納される。 si_utimesi_stime には子プロセスが使用したユーザ CPU 時間とシステム CPU 時間がそれぞれ格納される。(getrusage(2) や time(2) と異なり) これらのフィールドには wait 待ちの子プロセスにより使用された時間は含まれない。 2.6 より前と 2.6.27 以降のカーネルでは、 これらのフィールドに格納される CPU 時間の単位は sysconf(_SC_CLK_TCK) である。 2.6.27 より前の 2.6 系のカーネルでは、バグがあり、 これらのフィールドの CPU 時間の単位が (カーネルのコンフィグで指定される) システムの jiffy であった (time(7) 参照)。
*
SIGILL, SIGFPE, SIGSEGV, SIGBUS, SIGTRAP では、 si_addr に fault が発生したアドレスが設定される。 いくつかのアーキテクチャでは、 これらのシグナルは si_trapno フィールドにも設定される。 SIGBUS が発生するエラーのいくつか、特に BUS_MCEERR_AOBUS_MCEERR_AR では、 si_addr_lsb も設定される。 このフィールドは報告されるアドレスの最下位ビットを示し、 これによりメモリ破壊の程度を知ることができる。 例えば、ページ全体が壊れている場合には si_addr_lsb には log2(sysconf(_SC_PAGESIZE)) が入る。 BUS_MCERR_*si_addr_lsb は Linux 固有の拡張である。
*
SIGIO/SIGPOLL (2 つの名前は Linux では同義語) では si_bandsi_fd が設定される。 si_band イベントは、 poll(2) が revents フィールドに設定するのと同じ値が入ったビットマスクである。 si_fd フィールドは I/O イベントが発生したファイルディスクリプタを示す。

si_code は、そのシグナルが送信された理由を示す値である (ビットマスクではない)。 以下は、どのシグナルの場合でも si_code に入りうる値のリストである。シグナルが生成された理由も記載している。

SI_USER
kill(2)
SI_KERNEL
カーネルにより送信された
SI_QUEUE
sigqueue(3)
SI_TIMER
POSIX タイマが満了した
SI_MESGQ
POSIX メッセージキューの状態が変化した (Linux 2.6.6 以降)。 mq_notify(3)参照。
SI_ASYNCIO
非同期 IO (AIO) が完了した
SI_SIGIO
SIGIO がキューイングされた (Linux 2.2 以下のカーネルのみ; Linux 2.4 以降では以下で説明する SIGIO/SIGPOLLsi_code が入る)。
SI_TKILL
tkill(2) または tgkill(2) (Linux 2.4.19 以降)

SIGILL シグナルの場合、 si_code には以下の値が入る可能性がある:

ILL_ILLOPC
不正な命令コード (opcode)
ILL_ILLOPN
不正なオペランド
ILL_ILLADR
不正なアドレッシングモード
ILL_ILLTRP
不正なトラップ
ILL_PRVOPC
特権が必要な命令コード (opcode)
ILL_PRVREG
特権が必要なレジスタ
ILL_COPROC
コプロセッサのエラー
ILL_BADSTK
内部スタックエラー

SIGFPE シグナルの場合、 si_code には以下の値が入る可能性がある:

FPE_INTDIV
整数の 0 による除算
FPE_INTOVF
整数のオーバーフロー
FPE_FLTDIV
浮動小数点の 0 による除算
FPE_FLTOVF
浮動小数点のオーバーフロー
FPE_FLTUND
浮動小数点のアンダーフロー
FPE_FLTRES
浮動小数点の不正確な演算結果 (inexact result)
FPE_FLTINV
浮動小数点の不正な操作
FPE_FLTSUB
範囲外の添字 (subscript)

SIGSEGV シグナルの場合、 si_code には以下の値が入る可能性がある:

SEGV_MAPERR
オブジェクトにマッピングされていないアドレス
SEGV_ACCERR
マッピングされたオブジェクトに対するアクセス許可がない

SIGBUS シグナルの場合、 si_code には以下の値が入る可能性がある:

BUS_ADRALN
不正なアドレス・アライメント (alignment)
BUS_ADRERR
存在しない物理アドレス
BUS_OBJERR
オブジェクト固有のハードウェアエラー
BUS_MCEERR_AR (Linux 2.6.32 以降)
マシンチェックで使用中のハードウェアメモリのエラーが検出された。対応が必須。
BUS_MCEERR_AO (Linux 2.6.32 以降)
実行中にハードウェアメモリエラーが検出されたが、使用中のメモリではない。対応は必須ではない。

SIGTRAP シグナルの場合、 si_code には以下の値が入る可能性がある:

TRAP_BRKPT
プロセスのブレークポイント
TRAP_TRACE
プロセスのトレース・トラップ
TRAP_BRANCH (Linux 2.4 以降)
プロセスのブランチ・トラップ
TRAP_HWBKPT (Linux 2.4 以降)
ハードウェア・ブレークポイント/ウォッチポイント

SIGCHLD シグナルの場合、 si_code には以下の値が入る可能性がある:

CLD_EXITED
子プロセスが終了した (exited)
CLD_KILLED
子プロセスが kill された
CLD_DUMPED
子プロセスが異常終了した
CLD_TRAPPED
トレース対象の子プロセスがトラップを上げた
CLD_STOPPED
子プロセスが停止 (stop) した
CLD_CONTINUED
停止していた子プロセスが再開した (Linux 2.6.9 以降)

SIGIO/SIGPOLL シグナルの場合、 si_code には以下の値が入る可能性がある:

POLL_IN
入力データが利用可能
POLL_OUT
出力バッファが利用可能
POLL_MSG
入力メッセージが利用可能
POLL_ERR
I/O エラー
POLL_PRI
高優先の入力が利用可能
POLL_HUP
デバイスが接続されていない

返り値

sigaction() 関数は成功すると 0 を返す。 エラーの場合、-1 を返し、 errno にエラーを示す値をセットする。

エラー

EFAULT
actoldact が指しているメモリが正しいプロセスのアドレス空間にない。
EINVAL
無効なシグナルが指定された。補足 (catch) したり無視したりできない シグナルである SIGKILLSIGSTOP に対する動作を変更しようとした場合にも発生する。

準拠

POSIX.1-2001, SVr4.

注意

fork(2) 経由で作成された子プロセスは、親プロセスのシグナルの処理方法の コピーを継承する。 execve(2) の前後で、ハンドラが設定されているシグナルの処理方法はデフォルトにリセットされ、 無視が設定されているシグナルの処理方法は変更されずそのままとなる。

POSIX では、 kill(2) や raise(3) で生成できないシグナル SIGFPE, SIGILL, SIGSEGV を無視 (ignore) した場合、その後の動作は未定義である。 ゼロによる整数割り算の結果は未定義となる。 アーキテクチャーによっては、このとき SIGFPE シグナルが生成される。 (同様に負の最大整数を -1 で割ると SIGFPE が生成されるかもしれない) このシグナルを無視すると無限ループに陥るかもしれない。

POSIX.1-1990 では SIGCHLDSIG_IGN を設定することを認めていない。 POSIX.1-2001 では認められており、 SIGCHLD を無視することでゾンビプロセスの生成を防止することができる (wait(2) を参照)。 さらに、BSD と SystemV では SIGCHLD を無視した際の動作が異なっている。 そのため、完全に移植性がある方法で、終了した子プロセスがゾンビにならないこと を保証するには、 SIGCHLD シグナルを補足し、 wait(2) などを実行するしかない。

POSIX.1-1990 の仕様では SA_NOCLDSTOP のみが定義されている。 POSIX.1-2001 では SA_NOCLDWAIT, SA_RESETHAND, SA_NODEFER, SA_SIGINFO が追加された。 UNIX の古い実装で動かすアプリケーションで、 他の sa_flags フラグを使用すると移植性が下がる。

SA_RESETHAND フラグは SVr4 の同じ名前のフラグと互換性がある。

SA_NODEFER フラグは 1.3.9 以降のカーネルでは同じ名前の SVr4 のフラグと互換性がある。 ぞれ以前の Linux カーネルの実装では、このフラグを設定しているシグナル だけでなく、どのシグナルでも受けることを許していた (実際には sa_mask の設定により無効にできる)。

sigaction() の二番目の引き数に NULL を指定して呼び出すと、現在のシグナルハンドラを確認する ことができる。また、二番目と三番目の引き数を NULL にて呼び出すことで、 指定されたシグナルが現在のマシンで使えるかどうかチェックできる。

SIGKILLSIGSTOP を (sa_mask に指定して) 禁止することはできない。 禁止しようとしても黙って無視される。

シグナル集合の操作に関する詳細は sigsetops(3) を参照のこと。

シグナルハンドラ内から安全に呼び出すことができる、 async-signal-safe functions (非同期シングルで安全な関数) の リストについては signal(7) を参照。

非公式

SA_SIGINFO が導入される前は、 struct sigcontext 型の二番目の引き数と一緒に sa_handler を使用することで、 いくつかの追加の情報を入手することができた。 詳細については Linux カーネルソースの関連部分を見てほしい。 現在はこの使用法は廃止されている。

バグ

2.6.13 以前のカーネルでは、 sa_flagsSA_NODEFER を指定した場合、 ハンドラが実行中に配送されたシグナル自身がマスクされなくなるだけでなく、 sa_mask に指定されたシグナルもマスクされなくなる。 このバグは、カーネル 2.6.14 で修正された。

mprotect(2) 参照。

この文書について

この man ページは Linux man-pages プロジェクトのリリース 3.65 の一部である。 プロジェクトの説明とバグ報告に関する情報は http://www.kernel.org/doc/man-pages/ に書かれている。