pthread_mutex_init(3) pthread_mutex_trylock,

書式

#include <pthread.h>

pthread_mutex_t fastmutex = PTHREAD_MUTEX_INITIALIZER;

pthread_mutex_t recmutex = PTHREAD_RECURSIVE_MUTEX_INITIALIZER_NP;

pthread_mutex_t errchkmutex = PTHREAD_ERRORCHECK_MUTEX_INITIALIZER_NP;

int pthread_mutex_init(pthread_mutex_t *mutex, const pthread_mutexattr_t *mutexattr);

int pthread_mutex_lock(pthread_mutex_t *mutex));

int pthread_mutex_trylock(pthread_mutex_t *mutex);

int pthread_mutex_unlock(pthread_mutex_t *mutex);

int pthread_mutex_destroy(pthread_mutex_t *mutex);

説明

mutex は、排他制御 (MUTual EXclusion) の仕組みであり、共有データの同時更新 からの保護、クリティカルセクション (critical section) や モニタの実装などに使われる。

mutex は二つの状態を取りうる。それは、アンロック状態(どのスレッドにも 保有されていない)とロック状態(一つのスレッドに保有されている)である。 二つの異なるスレッドが同時に一つの mutex を保有することはない。既に他の スレッドによってロックされた mutex をロックしようとするスレッドは、保有 側のスレッドが先にその mutex をアンロックするまで実行を停止させられる。

pthread_mutex_initmutex が指す mutex オブジェクトを、 mutexattr で指定された mutex 属性オブジェクトに従って初期化する。 mutexattrNULL, ならば、デフォルトの属性がこのかわりに使われる。

LinuxThreads の実装はただ一つの属性 mutex kind だけに対応している。この属性は、「速い」(``fast'')、 「再帰的な」(``recursive'')、または 「エラー検査を行なう」(``error checking'')のいずれかを 指定するものである。 mutex の種別(kind)は、その mutex を既に保有しているスレッドが、 それを再びロックできるかどうかを決定する。 デフォルトの種別は「速い」である。mutex 属性のより詳しい情報は、 pthread_mutexattr_init(3) を見よ。

pthread_mutex_t 型の変数は、(速い mutex に対する)定数 PTHREAD_MUTEX_INITIALIZER と、(再帰的 mutex に対する) PTHREAD_RECURSIVE_MUTEX_INITIALIZER_NP および、(エラー検査を行なう mutex に対する) PTHREAD_ERRORCHECK_MUTEX_INITIALIZER_NP で、静的に初期化することもできる。

pthread_mutex_lock は、与えられた mutex をロックする。mutex が現在ロックされていなければ、 それはロックされ、呼び出しスレッドによって所有される。この場合 pthread_mutex_lock は直ちに返る。mutex が他のスレッドによって既にロックされていたのならば、 pthread_mutex_lock は mutex がアンロックされるまで呼び出しスレッドの実行を停止させる。

mutex が呼び出し側のスレッドにより既にロックされている場合には、 pthread_mutex_lock の振舞いは、mutex の種別に依存する。mutex の種別が「速い」であれば、 呼び出しスレッドは mutex がアンロックされるまで実行を停止する。 従って事実上呼び出しスレッドのデッドロックを引き起こす。 mutex の種別が「エラーをチェックする」であれば、 pthread_mutex_lock はエラーコード EDEADLK とともに直ちに戻る。mutex の種別が「再帰的」ならば、 pthread_mutex_lock は成功し直ちに戻る。この際、呼び出しスレッドが、その mutex を ロックした回数を記録する。この mutex がアンロック状態に戻るには、 同数の pthread_mutex_unlock 操作が実行されねばならない。

pthread_mutex_trylockpthread_mutex_lock と同様に振舞うが、mutex が既に他のスレッドによって (あるいは、「速い」 mutex の場合、呼び出しスレッドによって) ロックされている場合、呼び出しスレッドをブロックしない。 かわりに、 pthread_mutex_trylock はエラーコード EBUSY で直ちに戻る。

pthread_mutex_unlock は、与えられた mutex をアンロックする。 pthread_mutex_unlock の開始時点で、この mutex は呼び出しスレッドによりロックされ 所有されているものと仮定される。
 mutex が「速い」種別のものならば、 pthread_mutex_unlock は常にそれをアンロック状態に戻す。それが「再帰的な」種別ならば、
 mutex のロック計数(この mutex に対して pthread_mutex_lock 操作が呼び出しスレッドで実行された回数) を一つ減らし、この計数がゼロになった時に、初めて mutex が 実際にアンロックされる。

「エラーを検査する」mutex に対しては、 pthread_mutex_unlock は実行時に実際に、mutex が開始時点でロックされているか、 また、それは現在 pthread_mutex_unlock を呼んでいるのと同じスレッドによってロックされたかどうか、を検査する。 これらの条件が満たされない場合には、エラーコードが返され、mutex は 不変のままにされる。「速い」mutex と「再帰的な」mutex はこのような チェックを行なわなず、よって、ロックされた mutex を所有者以外の スレッドによってアンロックすることを可能にしている。これは、移植性の ない振舞いであり、これに依存するようなことはすべきでない。

pthread_mutex_destroy は、mutex オブジェクトを破壊し、それが保持している可能性のある 資源を開放する。mutex は関数の開始時点でアンロックされていなければ ならない。LinuxThreads の実装では、いかなる資源も mutex オブジェクトに 付随していない。故に pthread_mutex_destroy は実際のところ、mutex がアンロックされているかどうかを検査する 以外のことは何もしない。

取り消し

いかなる mutex 関数も取り消しポイントではない。 pthread_mutex_lock でさえも、それが任意の時間スレッドの実行を停止させうるという 事実にも関わらず、取り消しポイントではない。これにより、取り消し ポイントにおける mutex の状態は予測可能となり、取り消しハンドラが、 スレッドの実行停止以前にアンロックされる必要のある mutex まさにそれ のみを、正確にアンロックすることを可能にしている。この結果、遅延 取り消しを用いるスレッドは、決して余計な時間 mutex を所有することはない。

非同期シグナルに対する安全性

mutex 関数は非同期シグナルに対して安全ではない。これの 意味するところは、それらはシグナルハンドラから呼ぶべきではない、 ということである。特に pthread_mutex_lock または pthread_mutex_unlock のシグナルハンドラからの呼び出しは、呼び出しスレッドをデッド ロックさせる恐れがある。

返り値

pthread_mutex_init は、常に 0 を返す。他の mutex 関数は、成功すれば 0 を返し、 エラーでは非ゼロのエラーコードを返す。

エラー

pthread_mutex_lock はエラーの際、次のエラーコードを返す:

EINVAL
mutex が適切に初期化されていない。

EDEADLK
mutex は既に呼び出しスレッドによりロックされている。 (「エラー検査を行なう」 mutexes のみ)

pthread_mutex_trylock はエラーの際、次のエラーコードを返す:

EBUSY
現在ロックされているので mutex を取得できない。

EINVAL
mutex が適切に初期化されていない。

pthread_mutex_unlock はエラーの際、次のエラーコードを返す:

EINVAL
mutex が適切に初期化されていない。

EPERM
呼び出しスレッドは mutex を所有していない。(「エラーを検査する」 mutex のみ)

pthread_mutex_destroy はエラーの際、次のエラーコードを返す:

EBUSY
mutex は現在ロックされている。

著者

Xavier Leroy <[email protected]>

共有される大域変数 x は mutex により次のように保護される:


int x;
pthread_mutex_t mut = PTHREAD_MUTEX_INITIALIZER;

全ての x へのアクセスとその変更は pthread_mutex_lockpthread_mutex_unlock によって、次のように囲まれていなければならない:


pthread_mutex_lock(&mut); /* x の操作 */ pthread_mutex_unlock(&mut);

[訳注] glibc-linuxthreads の最新のドキュメントは Texinfo 形式で提供されている。 上の記述は glibc-linuxthreads-2.2 以降では正しくない。 以下は glibc-linuxthreads-2.3.1 の Texinfo ファイルからの引用である。 種別 (kind) が型 (type) に変更されている。

LinuxThreads 実装はただ 1 つの mutex 属性に対応している。 それは mutex 型 (mutex type) で、 「速い (fast) 」、「再帰的な (recursive) 」、 「時刻情報つき (timed) 」、「エラー検査を行なう (error checking) 」の いずれかである。 mutex 型は、 あるスレッドが自分自身ですでに保持している mutex をロックできるかどうかを 決定する。 デフォルトの mutex 型は「時刻情報つき (timed) 」である。

pthread_mutex_t 型の変数は、定数 PTHREAD_MUTEX_INITIALIZER ( 時刻情報つき (timed) mutex 用 ) 、 PTHREAD_RECURSIVE_MUTEX_INITIALIZER_NP ( 再帰的な (recursive) mutex 用 ) 、 PTHREAD_ADAPTIVE_MUTEX_INITIALIZER_NP ( 速い (fast) mutex 用 ) 、 PTHREAD_ERRORCHECK_MUTEX_INITIALIZER_NP ( エラー検査を行なう (error checking) mutex 用 ) を用いて 静的に初期化することもできる。